
やあやあ、万葉おじさんじゃよ。
冬の気配が近づいてくると、温泉の湯けむりが恋しくなるのう。
みんなも温泉地に着いたとき、ふと漂う“あの香り”に、旅のスイッチが入った経験があるじゃろう。
温泉からかすかに届く香りは、昔から人の心をほぐしてきた大切な存在なんじゃ。
温泉にはさまざまな香りがあって、その違いは泉質によるものじゃ。
まず思い浮かぶのは、やっぱり硫黄泉の香りじゃな。“これぞ温泉”という独特の匂いで、緊張をふっとほぐし、旅情を感じさせてくれる。硫黄には血行を促す働きもあってのう、湯に浸かった瞬間に“ああ、来てよかった”と思わせてくれる湯じゃ。
鉄サビのような金属っぽい香りが特徴の含鉄泉は、空気に触れると湯が赤褐色に変わるのも面白いところじゃ。古くから“婦人の湯”として親しまれ、貧血や冷えに悩む人に愛されてきた湯なんじゃよ。
温泉好きに根強い人気なのがアブラ臭の湯。地中の有機物が分解されて生まれる油や石油のような香りで、クセが強いが、一度ハマると忘れられん“通好み”の湯じゃな。
そして、ヨードチンキのような薬っぽい香りがする含よう素泉。千葉の白子温泉のように、ヨウ素を多く含む土地では特有の香りが漂っていて、なんとも“効きそう”な雰囲気を醸し出すんじゃ。
こうして匂いに目を向けると、温泉は目でも肌でも、さらに鼻でも楽しむものなんじゃと気づかされるのう。
香りの話を進めると、昔から暮らしの中で大切にされてきた“薬湯”にも触れずにはおれん。
しょうぶ湯は邪気払いとして、よもぎ湯は季節の変わり目の不調に、ひのき湯は森林浴のような落ち着きをもたらしてくれる。ひのきに含まれる「α-ピネン」には、まさに森の中で深呼吸したときのような安らぎがあると知られておる。
しょうぶ湯の菖蒲に含まれる精油成分は、腰痛や神経痛にもよいとされ、よもぎ風呂のヨモギに含まれるシオネールという爽やかな香りにはリラックスの力がある。
トウキ風呂のように和製ハーブの香りを楽しめる湯もあって、薬湯はまさに「香りそのものが効能」という、日本ならではの入浴文化なんじゃ。
そして、薬湯の中でも冬の主役は、なんといっても ゆず湯 じゃな。
ゆずの香りは、リモネンをはじめとした成分が爽やかさと温かみを両立させ、心身をふっと軽くしてくれる。
昔から無病息災や邪気払いの願いを込めて冬至に入られてきた知恵で、寒い季節にぴったりなんじゃよ。
沼津館では、今年の冬至(12月22日)にあわせて、21日・22日の2日間ゆず湯を楽しめるぞ。
一年の疲れをゆっくりほぐしながら、“香りの湯治”を味わいに来てくれたまえ。
